校舎不足のため、借家で学ぶ児童たち。
アフガニスタン国学校建設を通じた初等教育改善事業
2017年2月から2018年1月(開始月から1年間、治安状況など現地の状況により遅延する可能性があります)
カブール州カブール市ゾーン12(カブール市中心部から40キロ、車両で約30分)
アフガニスタン国教育省、カブール市教育局
①鉄筋コンクリート構造校舎1階建て1棟、6教室および2室(図書室、教員室)、トイレの建設(5部屋、うち1部屋は身体障がい児用)
②学校備品(教員用および児童用机、椅子、書類棚)の供与
③施設維持管理に関するワークショップの実施
415名の小学生児童(うち女子児童195名)
21名の小学生教員
2014年にガーニ大統領とアブドッラー行政長官が政治権力を分け合う国家統一政府が成立したものの、1つの国に2人のリーダーがいることによる両者の権力争いは治安能力や統治能力の脆弱さをもたらし、開発事業の実施を困難にしています。国防大臣や裁判所長官は、現在も任命されていません。国際援助の減少はアフガニスタンの経済にダメージを与え、多くの若者が欧州に難民として逃れています。両リーダーは国際社会に腐敗の一掃を約束しましたが、自分たちの抗争に忙しく、アフガニスタンはタリバン政権時代に世界で2番目に腐敗した国にランクされていましたが、現在世界で下から4番目のままです。この結果、国民の政府への支持率は37%にすぎません。
アフガニスタンの治安は更に悪化傾向にあります。タリバンや従来の反政府武装勢力に加えて、2014年からISがアフガニスタンでもテロ活動を始めました。反政府武装勢力は議会、大使館、中央政府等の施設や要人に対する攻撃を強化しています。またISはタリバンを敵であると宣言し、両者間の戦闘も激化しています。
首都カブールでもテロは増加しており、2016年は8月までに10件の大規模な爆発がありました。カブールでは15名のNGO職員、200名以上のビジネスマンが2015年から2016年8月までに誘拐されました。治安の悪化は経済の停滞を招き、2016年の上半期に6万人の若者が職を失いました。
ナンガハル州シナワリ郡でISは戦闘を強化し、2016年に3万人が家を失い、避難民となりました。ナンガハル州の接しているパキスタンのカイバル・パクトクンクワ州から、タリバンとISの8割は来ていると言われています。一方、パキスタン政府は2016年12月末までに、300万人ものすべての難民を帰還させると発表しました。帰還が始まった場合、ナンガハル州は難民の多くを受け入れることになりますが、IS,タリバン、政府軍という3者の間の紛争が続いています。UNHCRは、年末までに難民が帰還した場合、食糧と越冬の支援が必要になると述べています。
アフガニスタンの教育は2002年以降大きく改善されましたが、未だ就学年齢児童の3割にあたる330万人の子どもが不就学です。不就学の要因として、教育省は、治安の悪さ、貧困に起因する児童労働、学校が遠いこと、教育の質の悪さをあげています。
学校の質、すなわち教育環境の課題としては以下の3点があげられています。第一は、校舎や教育施設の不足です。全国に2014年の時点で14,599校の公立一般学校があるが、校舎があるのは51%の7,300校にすぎません。本事業の対象地域であるカブール市の271校のうち82校で教室が不足し、少なくとも15万人の児童は野外での学習を強いられています。教育省の教育開発計画によると、学校の増加数の方が校舎の増加数より多いため、校舎がある学校の割合は減少傾向にあります。校舎がある学校においても教室が不足しているため、多くの学校が2部制を採用しています。教育省は、教室不足以外の学校施設の課題として、トイレ、飲み水施設、外壁の不足をあげています。
第二の課題である教員については20万人が不足しており、アフガン全体の364郡のうち80郡に女性教員はいません。また58%は無資格教員であり、教員の現職研修が必要とされています。
第三の課題である教材と教授法については、教科書は85%の児童が有しているものの、教科書以外の教材が不足しています。図書室を有する学校は2割に過ぎず、図書室があっても、辞書や参考書が主な蔵書であり、小学生向けの図書や絵本はほとんどありません。教育省は2020年まで毎年300校に図書室を設置する計画を持っています。
対象校は、カブール市ゾーン12にあるShams Tabrize小学校です。同校は2015年に設立されましたが、校舎が全く無く、トイレもありません。コミュニティが作った飲料のための井戸があるので、井戸建設を支援する必要はありません。当会がトイレを設置した後、この井戸から、電動ポンプで水を供給します。なお同校には電気は供給されています。同校は共学校で、12クラスの415名(うち女子が195名)は全員、カブール市教育局が借りた借家で勉強しています。2部制を採用しており午前が1年生から3年生の6クラス、午後が4年生から6年生の6クラスが学習している。教員は21名でうち女性教員が19名です。
対象校の選定理由は、①カブール市教育局の支援要請があったこと、②教室が不足していること、③安全が確保されていること、④住民組織(シューラ)の参加・協力が得られること、⑤貧困層の居住地域であること、です。一部の専門的な作業を除いて建設業者は使わず、当会が資材・労働力を直接調達し、建設現場にサイトエンジニアを配置し、住民の参加・協力のもと建設を行います。
カブールは寒冷地で3月末までは工事ができないため4月に建設作業を開始し、12月に完了し、竣工式を実施する予定ですが、12月中旬にカブール市の学校は試験が始まり、その後3月21日の新学期まで長期の休みに入ってしまうため、全教員を対象とする校舎およびトイレの維持管理ワークショップは、2018年4月上旬に実施します。その後、教員が全児童に対して校舎およびトイレの適切な使用法についての授業を行います。
借家の教室にて学ぶ女子児童たち。
狭い部屋に密集して学習している状況。
家具 ・備品も十分にない室内 。
校舎はなく土地のみある。
アフガニスタン教育省の設計図に基づき、1階建て6教室と2室(図書室、職員室等として活用する小規模の部屋)からなる新校舎を1棟建設します。また、5室のトイレ(うち1室は障がい児用)を建設します。トイレは、教育省の新しい設計図に沿って、水洗となります。タンクをトイレの屋上に設置し、水をすでにある井戸からポンプでくみ上げます。なお、建物外部の塗装は2017年12月末までに完了する予定ですが、教室内部の塗装は、漆喰作業が終わり、完全に乾燥した後、行う必要があるため、2018年6月の試験休み期間中に行います。
地域住民は以下の面で建設事業に参加、協力します。
・ 安全確保
・ 建設資材の管理、盗難防止
・ サイトエンジニアの宿泊及びコック提供
・ 教育局との調整
・ 労働賃金の適正価格の確保
・ 現地調達資材の適正価格の確保
・ 竣工式の開催
・ 建設後の校舎維持管理ワークショップへの参加
・ 校舎の引渡し後のコミュニティによる学校運営、校舎の維持管理
上記のような住民の協力を金額に換算することは困難ですが、住民の協力なくしての事業実施は非常に難しいといえます。
教員及び児童・生徒用の机・椅子や本棚等の備品を設置します。
校舎を地域・学校へ引き渡す際、代表住民、教員などを対象に建物の維持管理に関するワークショップを行い、基礎知識を身につけてもらうようにします。学校においては、雨の後は窓を開けて換気をよくするなど、基本的な知識を教員から児童・生徒にも伝達してもらうよう促します。なお、このワークショップは、新学期が始まる2018年3月以降に実施します。
また、2018年5月に防災教育についての教員研修を実施します。この研修は、①防災教育の授業の実践についての研修と、②学校防災計画(教員の役割分担と避難計画)の立案で構成します。この教員研修の後、教員が全ての小学生クラスを対象に防災教育の授業を行います。また避難訓練を実施し、当会はこれらのモニタリングを行います。
・ 人口: 3,055万人(2013年、世界銀行)
・ 国土面積: 65.2万キロメートル
・ 言語: ダリ語、パシュトゥー語
・ 平均寿命: 60歳 (2012年、ユニセフ)
・ 乳児死亡率(1歳未満): 70人/1,000人 (2013年、ユニセフ)
・ 幼児死亡率(5歳未満): 97人/1,000人 (2013年、ユニセフ)
・ 経済状況:一人当たりの名目GDP: 649USドル(2014年、世界銀行)
・ 消費者物価上昇率(インフレ率): 4.6 %(2014年、世界銀行)
・ 教育状況:純就学率: 72%(男子82%、女子61%), 不就学の学齢児童は330万人(75%が女子)
・ 成人識字率: 36%(2012年、アフガニスタン教育省)
シャムス ・タブリズ小学校